| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T17-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
植物の必須元素は窒素、リンをはじめとして17種類あり、そのうち14種類を土壌中から獲得する必要がある。しかし、植物が利用可能な無機栄養は土壌中に常に十分に存在せず、土壌の無機栄養の濃度は時間的に大きく変動し、空間的にも不均一に分布している。植物は時間的・空間的に変化する無機栄養環境に応答して、根での無機栄養の吸収や体内の代謝を厳密に制御し、個体の成長を支える。このような植物個体での恒常性を保つしくみは、モデル植物であるシロイヌナズナやイネを中心として、変異株の解析から分子レベルでの解明が進められてきた。
土壌中から根への無機栄養の吸収は、主に根系の変化と輸送タンパク質の発現制御によって制御される。無機栄養の欠乏条件において根系は大きく変化し、パターンは各無機元素によって異なる。さらに、植物は各無機栄養に対して特異的な輸送タンパク質をもち、組織や細胞での発現特異性や栄養条件に応じて発現量や活性を制御することで、体内の無機栄養の恒常性を保つ。
植物個体は、無機栄養を吸収する根と光合成を担う葉(地上部)に大きく分けられ、成長と栄養吸収のバランスをとる必要がある。どのように各器官の栄養状態の情報を統合し、植物個体全体として応答を協調させているのだろうか?無機栄養の環境応答では、局所的(local)な応答と全身的(systemic)な応答の存在が接木や根分け実験から示され、根と地上部の間の双方向の長距離の情報伝達が明らかにされている。長距離の情報伝達の分子実体として、植物ホルモンや糖、無機栄養それ自体や代謝産物、マイクロRNA、ペプチドが機能し、導管や篩管を介して器官間を移動し、受容される。
本発表では植物個体における根と地上部のコミュニケーションに注目し、植物個体レベルでの無機栄養応答の分子機構の知見を紹介する。さらに、個体の応答として、栄養欠乏下での積極的に成長を停止する仮説を議論したい。