| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T19-4 (Lecture in Symposium/Workshop)
里地には、人為的な撹乱など様々な農生態系管理を通した環境変化と、それ以外の環境変動が作用している。里地特有の種や群集の構造や機能について、それらを長期にわたって記述することは重要である。しかし、そこから得られたデータから、増減、変化なしの現象は検出できても、それがなぜ起きたのかを解くのには困難を伴う場合は多いのではないだろうか。まさに私たちは「逆問題」を扱う難しさに直面しがちである。ここでは、演者が取り組んできた里地の水田生物の個体群や群集の挙動の中で、この逆問題への上手な解法に結びつくような鍵について、トンボ類等を例に考察する。まず一つ目の鍵は、ある種の挙動と環境との相互関係について、里地固有の変化とそれ以外の環境変化と関連させて、分布と数の変化の要因を解き明かすことである。個体群の時・空間的な挙動を、繁殖率や移出入のデータを交えて解析する必要がある。さらに個体群を複数調べれば群集動態として、レジリエンスを含む生態系の変化を見通すことができるだろう。二つ目には、環境の記述において、里地には特有な環境要因が働いていることは最低限見逃してはならない。そのためには里地生活者が日々何をしているか、できるだけ克明に記述した方がよい。また調査対象の個体群、群集に影響を及ぼす上で、生物の適応上影響が大きな要因(例えば農薬等)はまず取り上げる方が良いであろう。一方、景観要因も無視できない。第三の鍵は、一つ目の個体群や群集と、環境の二つ目の鍵をつなぐ、種の生活史に関わる情報である。かつては生活系(life system)と呼んだが、例えば生活環の時・空間的な情報は断片的な記述だけに留まらずに、実際の確率にする必要がある。この点では、例えば農業依存性(日鷹・嶺田ら 2006)のような切り口に留意すると、レジリエンスを含む生物群と環境の関係をよりうまく説明できるかもしれない。