| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T20-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

環境DNA手法の感染症生態学への応用:タイ肝吸虫Opisthorchis viverriniの検出

*橋爪裕宜 (神戸大・発達), サトウ恵 (新潟大・保健), Marcello Otake Sato (獨協医科大・医学), T. Yoonuan, S. Sanguankiat (Mahidol Univ., Trop Med), T. Pongvongsa (Savannakhet Malaria Station), 門司和彦 (長崎大・国際健康開発), 源利文 (神戸大・発達)

タイ肝吸虫症はとタイ・ラオス等で発生する寄生虫症の1つで、タイ肝吸虫Opisthorchis viverriniが長期間胆管に寄生することにより発症し、癌の原因にもなる。生活史の中で第1宿主の巻貝、第2宿主のコイ科の魚類に感染し、終宿主のヒトを含む哺乳類に寄生する。これまでの生態学的研究としては、宿主を捕獲し感染の有無を調べていたが、雨季の洪水や農地拡大によって寄生虫や宿主の生息地が大きく変化するため、その分布をタイムリーかつダイナミックに理解することは困難である。本研究ではミトコンドリアCOI領域に種特異的かつ短い増幅長のプライマーを作成し、環境DNA手法を用いた環境水中からの検出に取り組んだ。まずプライマーの感度を確認するために、ラオスで採取された検便検体DNAを用いてリアルタイムPCRを行い、シーケンスを確かめた結果、既存の種特異的PCRと比較して検出力に差がないことを確認した。そして2015年5月と10月にラオスで採水した環境水62サンプルをリアルタイムPCRで解析したところ、3サンプルでタイ肝吸虫のDNAを検出することに成功した。この手法はDNAサンプルをそのまま第1、第2宿主の検出に利用することができ、その結果も報告する。同手法は生活史に水系が関わる他の感染症に応用可能で、多地点の調査を短時間・低コストで行うことができるため、感染症生態学研究の有効なツールとなるだろう。


日本生態学会