| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T20-6 (Lecture in Symposium/Workshop)
変動する環境のもとで個体群を維持していくためには、高い遺伝的多様性が不可欠である。しかし、対象種を捕獲することが必須となるこれまでの遺伝的多様性の調査手法では、希少種や捕獲困難種への適用が困難であった。そこで本研究では、生物とその生息環境に対する影響が小さい環境DNA分析を発展させ、水試料から遺伝的多様性を評価することを試みた。
遺伝的多様性について多くの研究が行われてきたアユ(Plecoglossus altivelis altivelis)を対象種とし、ミトコンドリアのD-loop領域を種特異的に増幅するプライマーを開発した。実験1では、アユの仔魚20匹を個別飼育した水槽水に含まれる環境DNAから各個体のハプロタイプを判読できるか確認するため、筋組織由来のDNAから決定されたハプロタイプと比較した。結果、水槽水由来の環境DNAと各個体の筋組織から得たDNAの両者からサンガー法で決定されたハプロタイプが完全に一致し、環境DNAから個体独自のハプロタイプを正確に読み取れることを確認した。
実験2では、実験1で用いたアユの仔魚20匹分の水槽水を混合した水試料およびアユの仔魚を捕獲した漁場から採取した野外環境水について、次世代シーケンサーMiSeqを用いたミトコンドリアDNAハプロタイプの網羅的な検出を試みた。結果、水槽水の混合試料から飼育した20個体のハプロタイプすべてが検出され、野外環境水からはその水域で捕獲した個体から直接得られたものを含む、多数のハプロタイプが検出された。この結果は、あらゆる生物のDNAが混在している環境水から、特定種のハプロタイプを特異的に検出した初の成果であり、多個体が属する野外個体群内の遺伝的多様性を網羅的に評価できる可能性を示している。