| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T22-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

絶滅危惧種保全とツーリズムは共存できるのか?

早矢仕 有子(札幌大)

シマフクロウ Ketupa blakistoni に対する国の保護増殖事業開始から30余年、バードウオッチャーやカメラマンの接近による個体への妨害行為を回避するため、国は生息地情報を公表してこなかった。しかし実際には、「シマフクロウが見られる」ことを謳う宿泊施設が複数存在し、中には餌付けにより野生個体を誘引している宿もある。旅行会社はそれらを利用するツアーを企画し、鳥好きの購読誌に募集広告を掲載している。国の保護方針と相入れないこれらの行為を国はほぼ黙殺してきた。近年、インターネットの普及、SNS利用の拡大に伴い、詳細な生息地情報の露出はさらに激化している。

個体を見せることで絶滅危惧種への関心と理解が高まるなら、種の保全にも利益があるはずだ。しかし、現状の見せ方では、保全に貢献しているとは言いがたい。その理由は第一に、餌付けである。シマフクロウでは、天然の餌資源が乏しい一部生息地で国が給餌を実施しているが、それはあくまで個体の生存と繁殖を援助するための管理された行為であり、観光目的の餌付けとは主旨が異なる。営利を伴う餌付けは野生動物の私物化であり、個体から野生を奪い去る行為といえる。第二の理由は、シマフクロウを見に行く人のほとんどが写真撮影を目的としていることだ。そのため、個体への接近や人工照明が必要になり、個体への負担を増している。さらに、訪問客に対しシマフクロウの生態や保全施策の正しい知識を提供する場が無いことも大きな問題点である。

絶滅危惧種を観光に利用する場合、その前提として、個体への悪影響を最小限に抑制すべきなのは言うまでもなく、個体への負担を上回る保全上の利益を生み出す必要があるはずだ。それには、国の保護増殖事業の中で、個体や生息地を見せることを普及啓蒙の一環として位置づけ、自治体や研究者、地域住民と連携した公的プログラム作成を急ぐべきである。


日本生態学会