| 要旨トップ | ESJ63 企画集会 一覧 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T22 -- 3月24日 9:30-11:30 RoomH

絶滅危惧鳥類と末永く上手に付き合う方法 -見せながら守れるの?-

企画者: 早矢仕 有子 (札幌大学)

絶滅危惧種の持つ「珍しさ」はそれ自体が価値を高め、「見ることの喜び」や「写真を撮る喜び」をもたらす。とくに大型捕食者の猛禽類は人気が高く、接近しやすい生息地では一旦生息情報が広まると訪問者が急増し、営巣地や採餌場所へのヒトの接近による個体への悪影響が懸念される。そのような猛禽類を対象とする研究者は各々の調査地で個別対応に苦慮しているが、お互いの情報交換の機会が乏しく、絶滅を加速させる要因としての一般的認識も低い。

また、ヒトの野外活動が、意図せぬまま絶滅危惧種への過度な接近を引きおこし、その生存や繁殖を妨げることもある。知床半島に生息する海鳥のケイマフリは、生息海域と営巣地が観光船航路と重なったことで採餌や繁殖への妨害がおこり、個体群存続が危ぶまれた。しかし、ケイマフリの観光資源としての価値を観光業者に気づかせたことで、保全への認識を共有することに成功している。現在、ヒトの接近に悩むイヌワシやシマフクロウでも、関心の高さを利用することで、「見たいから守らねばならない」という認識を呼び起こすことも可能なはずだ。そこからさらに「守るために見ることを我慢」できる段階へ移行させるのも、研究者の役割かもしれない。

一方、野生絶滅したコウノトリの再導入事業では、市民や観光客に個体や生息地を見せつつ、地域が主体となり生息環境復元に取り組んでいる。コウノトリが呼び水となり地域の価値が高まり、保全への意欲が増大する好循環が生まれている。

もちろん、生態特性が大きく異なる絶滅危惧鳥類を共通の方法で「見せて守る」ことは不可能であろう。しかし、見せて守るためには、地域住民・行政・研究者による合意形成が必要なことは共通しているはずである。ここでは4題の事例を紹介し、絶滅危惧種の保全と利用の両立可能性を検討する。

コメンテータ:松田裕之(横浜国立大学)

[T22-1] 絶滅危惧種保全とツーリズムは共存できるのか?  早矢仕 有子(札幌大)

[T22-2] イヌワシを見せて守る・・・理想と現実  須藤 明子((株)イーグレット・オフィス)

[T22-3] 知床におけるケイマフリおよび海鳥の保全活動  福田 佳弘(知床海鳥研究会)

[T22-4] 研究者の眼、行政の力、地域住民の思い:絶滅危惧種保全をめぐる順応的ガバナンス  菊地 直樹(総合地球環境学研究所)


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