| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T24-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

水圏環境における有機物—微生物連鎖系の相互作用プロセス

高巣裕之(東大・大気海洋研)

海洋の溶存態有機物は、大気中の二酸化炭素に匹敵する巨大な炭素リザーバーであるが、その大部分は同定不能かつ生物学的に不活性な難分解性有機物として存在している。一方で、主に植物プランクトンによる光合成生産物に由来するアミノ酸や糖類は、従属栄養細菌群集にとっての重要な炭素・窒素源として、細菌生産を支える役割を果たしている。そのため、これらは細菌によって速やかに消費され、海水中にほとんど蓄積しないと考えられている。しかしながら、分解・変質の進行した有機物中において特定のアミノ酸が卓越することや、複数の海域で特定のタンパク質が検出されるなど、有機物の分解や残存、分布パターンを制御する因子に関しては依然として不明な点が多い。例えば、地球化学的な観測結果によると、分解・変質の進行した有機物中においてグリシンが卓越することがよく知られている。一方で、細菌群集による遊離態アミノ酸の取り込みを種類ごとに評価した試みによると、アミノ酸の構造の複雑性と取り込み量は反比例しており、最も単純な構造のアミノ酸であるグリシンは、細菌によく取り込まれたと報告されている。このようなギャップを生み出す要因のひとつとして、有機物の存在状態が鍵になっていると考えられる。アミノ酸の多くはコロイド粒子に吸着していると報告されており、粒子に吸着することで微生物による分解速度が著しく低下することが指摘されている。我々の研究でも、コロイド態に特定のアミノ酸が多量に存在することを発見した(Takasu & Nagata 2015)。演者は、有機物と細菌群集の動態との関係の解明を目指し、実環境中における、アミノ酸をはじめとした有機物の存在状態の解明とともに、細菌群集による有機物の利用様式に関して、研究を進めている。


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