| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) B02-09 (Oral presentation)
標本はその個体が採集した時に採集した場所に存在したことを示す証拠として重要であり、標本の持つデータは過去の環境や生態を推定することにも活用される。さらに近年では標本からDNAなどの分子データを得ることによって絶滅種や希少種の系統関係について分子系統解析が行われるなど、標本が持つ情報の重要性が増加している。一方で、標本の状態や作成過程、保管過程がDNAの状態に影響するため、現状では適切に処理・保管された比較的近年の標本が利用の中心となっている。そのため、標本のDNAを解析する技術の確立は、これまでに蓄積されている標本のさらなる活用や標本収集の重要性を評価する上でも課題となっている。
ホルマリン固定液浸標本はホルマリンによって組織を固定し、その後70%エタノールなどで保管している標本で、魚類や両生類、爬虫類などの小型動物を中心に一般的に使われている標本保存方法である。しかしホルマリンはタンパクとDNAの架橋の促進や、溶液が時間の経過によってDNAの分解を促進する酸性を示すなどの問題があり、一般的にホルマリン固定標本のDNA解析は難しいとされている。
本研究では1970年代から2000年代のニホントカゲのホルマリン固定液浸標本を対象に、DNA解析を試みた。使用組織として筋組織と肝臓を比較したところ、肝臓からはより多くのDNAを回収することができた。このうち1979年採集の1個体についてPCRと次世代シーケンサーによる塩基配列の決定効率について比較した。PCRでミトコンドリアCytb遺伝子の一部を増幅をしたところ、短断片の増幅と塩基配列の決定をすることができた。また、次世代シーケンサーではより長い塩基配列を決定することができた。このことからホルマリン固定液浸標本のDNA解析には次世代シーケンサーの利用がより有効であると考えられた。