| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-04 (Oral presentation)
アリ類の多様性がきわめて高い熱帯林では,アリ類に擬態する生物の多様性も高いことが知られている.我々は,東南アジア熱帯林3か所で同所に出現するアリとアリに擬態するクモ類の調査を行い,アリ擬態クモ類の出現種数がアリ種数の多い場所で高くなることや,その擬態形態が同所アリ類の形態多様性とマッチングしていることなどを明らかにしてきた.これらのことから,防衛効果の高いアリ擬態は,アリに擬態する生物の種多様性を増大させる機構にもなっていると考えている.しかし,その一方で,以下のように,ハエトリグモ科アリグモ属で,単に防衛効果を得るためのアリ擬態と考えるには,その形態がアリに似すぎること,さらに,似すぎることによって獲物を捕獲できなくなる不利益が生じていることを見出した.
1)アリグモ属では各々の種が特定の1種のアリに体型,体色,体サイズまでを正確に似せる擬態関係が見出された.同所にはハエトリグモ科Agorius属のように,前脚をアリの触覚のように動かす行動や細長い体形が曖昧にアリに似ているだけのアリ擬態クモ類が共存しており,このような曖昧なアリ擬態で捕食者に対して防衛効果があることが検証されている.
2)アリグモ属では,非擬態クモやAgorius属に比べて獲物の捕獲成功率が有意に低下することが分かった.ハエトリグモは網を張らず,葉上の小昆虫を跳躍して捕獲する.この跳躍力は腹部の体液を胸脚部に押し出すことで得られる.アリグモ属では極端にくびれたアリの腹部形態に似すぎるなど,「似すぎる擬態」が原因で跳躍力がほぼ失われていることも明らかになった.
本講演では,アリグモ属で見られる「アリに似すぎる擬態」の様式とその獲物の捕獲行動の詳細を報告するとともに,この「アリに似すぎる擬態」が,これまでに知られていない,新しい擬態のタイプであるのかを検証する.