| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-07 (Oral presentation)
性選択には大きく分けて、オスの交尾成功に関わる交尾前の性選択と、受精成功に関わる交尾後の性選択という2つの過程がある。近年、これらの交尾前・後の性選択は、時間的・空間的に変動する周囲の生物的・非生物的な環境の影響を受けており、ある環境では有利な形質が、別の環境では必ずしも有利に働くわけではないことが明らかになりつつある。気温は年内だけでなく日内でも変動し、生物、特に変温動物の行動や生理機能に重大な影響を与える。しかしながら、周囲の気温が交尾前や交尾後の性選択にどのような影響を与えるかを総合的に調べた研究は少ない。
そこで本研究ではまず、タバコシバンムシLasioderma serricorneの交尾前・後の性選択形質を、交尾時の温度を低温(19℃)、中温(25℃)、または高温(31℃)にした条件下で調べた。交尾率やオスの魅力度、求愛の激しさは、気温の影響を受けていなかったが、交尾持続時間は気温が上がるほど短くなり、メスへの精子移送量と交尾したメスの産子数は中温処理区の方が低温・高温処理区よりも有意に高かった。次にメスが複数回交尾を行う条件下において、1回目の交尾時(実験1)、または2回目の交尾時(実験2)に気温を変えた2回交尾実験を用いて、防衛的・攻撃的な精子競争能力への気温の影響を調べた。実験1では、中温処理区に比べ、低温・高温処理区のオスはメスに再交尾されやすく、2回目に交尾するオスに父性を奪われやすかった。実験2では、気温は既交尾メスに対するオスの交尾成功率に影響はなかったが、低温・高温処理区に比べ、中温処理区のオスは有意に多くの父性を獲得していた。
以上の結果から、気温は本種の交尾前の性選択よりむしろ交尾後の性選択に影響を与えることが示唆された。野外において時間的・空間的に変動する温度環境は、交尾後の性選択を通じた精子や射精物の形質の進化を、より複雑にしていると考えられる。