| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-10 (Oral presentation)
両生類や魚類、昆虫類では、捕食者の存在によって卵の孵化タイミングが早まる例が知られている。これは、卵捕食のリスクを減らす上で有効な対捕食者戦略であると考えられる。一方、昆虫以外の無脊椎動物の場合、捕食者存在下で孵化のタイミングが変化する可能性が室内実験によって数例報告されているが、その適応的意義に関してはほとんど分かっていない。本研究では、岩礁潮間帯に生息する藻食性笠貝キクノハナガイSiphonaria siriusと、その成体の捕食者であるイボニシThais clavigera、および卵の捕食者であるシマレイシガイダマシMorula musivaという2種の巻貝を対象とし、まず、成体捕食者と卵捕食者の存在がキクノハナガイの卵の孵化タイミングに与える影響を野外実験によって調べた。その結果、卵捕食者の存在下でのみ、孵化が早まることが示された。続いて、胚が自ら孵化のタイミングを決めているかどうかを明らかにするために、産卵前から産卵直後まで卵捕食者が存在する処理区と、産卵直後から孵化まで存在する処理区を設けて野外実験を行った。その結果、産卵後に卵捕食者が存在することで、孵化が早まることが示された。つまり、親が卵サイズ等を調節して孵化を早めているのではなく、胚が自身の被食リスクに応じて孵化を早めていると考えられた。有力な卵捕食者が存在するキクノハナガイの胚発生は、有力な卵捕食者が知られていない近縁種の発生と比べて非常に早いことからも、この現象は、卵捕食者に対する反応であることが示唆される。