| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-11  (Oral presentation)

タンガニイカ湖産鱗食魚における鱗食経験に基づく行動の左右性の強化

*竹内勇一(富山大学), 小田洋一(名古屋大学)

 右利き・左利きといった行動の左右性は、魚類からほ乳類まで、様々な動物に広く見られる現象であるが、発達上の獲得過程はよく分かっていない。アフリカ・タンガニイカ湖に生息する鱗食性シクリッド科魚類Perissodus microlepisは、個体ごとに口部形態に左右差をもち、左顎の大きな左利き個体は獲物の左体側を、右顎の大きな右利き個体は右体側の鱗を好んで狙う。私たちは以前の研究で、野外採集した鱗食魚の胃から得たウロコの形状を精査して、鱗食開始期には獲物に対して左右両方向から襲い、体の成長とともに口部形態に対応した一方向から襲うようになると推定した。
 今回、繁殖で得た鱗食魚を用いて、捕食行動の左右性の獲得過程を実験的に検証した。まず、ふ化して固形飼料のみで個別飼育した鱗食未経験の幼魚(4ヶ月齢、21匹)と餌魚(キンギョ)を1匹ずつ水槽に入れて、1時間行動を観察した。観察した全個体は、獲物に対して両方向から襲った。同じ個体を用いて、数日おきに捕食実験を計5回行ったところ、襲撃方向は徐々に口部形態と対応した方向に偏り、野外研究を支持する結果が得られた。また実験を繰り返すと捕食成功率は高くなっていた。次に、鱗食未経験の成魚(9ヶ月齢、6匹)で捕食実験を行い、先ほどの幼魚の5回目と襲撃方向の偏りを比較したところ、幼魚5回目の方が有意に偏りが強く、同様に、同齢の幼魚で5回目の実験日に1回目の実験を行った2群(6匹ずつ)を比較しても、5回目の群の方が偏りが強かった。驚いたことに、襲撃時に見られる胴の屈曲運動(屈曲変化量、最大角速度)は1回目の捕食実験から、口部形態と対応した方向で高い能力が発揮された。以上より、鱗食魚には生得的に捕食に有利な方向があり、鱗食経験からの学習を通じてランダムであった襲撃方向が有利方向へと統一され、効率的に鱗食できるようになると考えられる。


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