| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-13 (Oral presentation)
繁殖期に音を使って求愛する生物は様々な分類群で知られているが、その多くはオスだけが音を発しメスは音を発さない。これはカエル類も同様であり、メスのカエルは鳴き声を増幅するための鳴嚢を持たないため、一般的にメスは繁殖期に鳴き声を出さないとされてきた。一方で、ごく一部の特殊な繁殖様式を持つ種ではメスも鳴き声を発することが報告されているものの、メスの鳴き声についての研究はあまり進んでいない。近年、日本に生息する普通種であるトノサマガエルPelophylax nigromaculatus において、メスが鳴き声を出していることが発表者によって発見された。そこで本研究では、トノサマガエルにおけるメスの鳴き声の機能の解明を目的として行動実験を行った。まず、メスがどのような状態の時に鳴き声を出すのかを調べるために、メスの卵巣の状態とオスとの対面時に出す鳴き声の回数との関係を調べた。その結果、卵巣内に卵を保持しているメスほど鳴き声の回数は少なくなる傾向があり、産卵できないメスほどよく鳴いていることが明らかとなった。次に、オスがメスの鳴き声に対してどのように反応するかを調べた。その結果、オスはメスの鳴き声から離れるように動く傾向があり、メスの鳴き声から逃げていることが明らかとなった。これらの結果から、メスは自身の繁殖不可状態を鳴き声によってオスに知らせ、オスからの無駄な求愛を回避していることが示唆された。これまでカエル類のほかの種で見つかっているメスの鳴き声はいずれも、オスとの求愛を成功させるためやメス同士の縄張り争いのための機能であり、オスからの求愛を回避するためにメスが鳴き声を出している事例はこれまでに報告されていない。