| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) M01-02 (Oral presentation)
種子の発芽に特別な環境を必要とする、半着生型のイチジク(絞め殺しイチジク)の種子散布機構について発表を行う。熱帯アジアでは、イチジクの果実は非常に多くの動物種に利用される、キーストーン植物である。特に、生活形が半着生型の種は、イチジクの種全体の半数近くを占め、森林生態系において重要な構成要素となる。半着生イチジクの生態系における重要性にも関わらず、その種子散布機構は、ほとんど知られていない。
本研究では、ボルネオ島マレーシア領サバ州マリアウベイスン自然保護区において、樹上性または飛翔性の大型果実食者であるビントロング(Arctictis binturong)、ボルネオテナガザル(Hylobates muelleri)、オナガサイチョウ(Rhinoplax vigil)に着目し、半着生イチジクの種子散布者としての有効性を比較評価した。各種の種子散布者としての有効性は、1) 結実木における滞在時間と、2) 排泄場所の微小環境を指標とした。結実木での観察の結果、1) 滞在時間はビントロングが最も長く、2)排泄場所も、ビントロングのみが半着生イチジクの種子の発芽に適した環境に排泄した。これらの結果から、ビントロング、ボルネオテナガザル、オナガサイチョウの中では、ビントロングが最も有効な半着生イチジクの種子散布者であることが示唆された。自然条件下では、ビントロングの糞由来の種子の発芽・生存率ともに非常に低いが、ビントロングの腸管を通過することで、半着生イチジクの種子の発芽が促進されることも明らかになった。今後、ビントロングの排泄場所をより多く特定して長期観察を行うことで、半着生イチジクの実生の定着率も記録する予定である。