| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) M01-08  (Oral presentation)

ゾウムシとキクイムシの間に見られるフタバガキ科種子への加害時期の違い

*浅野郁(京都大学), 清水加耶(岡山大学), 岸本圭子(新潟大学), 市岡孝朗(京都大学)

東南アジアの低地熱帯雨林では、数年に一度の不規則な間隔で、様々な科に属する植物が同調して開花・結実する現象が観察される。当地域の優占種を多く含むフタバガキ科樹種の大半は、この同調マスティング期にのみ大量の堅果を生産するが、その種子の多くは昆虫や哺乳類によって捕食される。中でも、落下前の種子における昆虫食害はフタバガキ科樹木の主要な死亡要因であると言われており、フタバガキ科の昆虫による種子捕食の実態を解明することは、フタバガキ科樹木の世代更新を理解するだけではなく、当地域の森林動態を理解する上でも重要である。フタバガキ科種子の加害昆虫はゾウムシ、キクイムシ、小蛾類であることが知られているが、これらの昆虫が、いつ・どこで・どのような種子を捕食するのかは、未だ不明な点が多い。本研究は、3属9種17個体のフタバガキ科樹木を対象として、林冠観測用クレーンやタワーを用いることにより、落下後の種子だけではなく、樹上にある落下前の種子も複数回にわたって採集し、ゾウムシ、キクイムシ、小蛾類による種子捕食の発生時期と頻度を調査した。その結果、ゾウムシ類は、未成熟期後半の落下前種子に加害していたのに対し、キクイムシ類は、成熟度に関わらず落下後の種子に加害する傾向がみられた。ゾウムシ類はキクイムシ類よりも先に種子を捕食できるのに対し、キクイムシ類はゾウムシ類が餌資源として利用できない未成熟種子も利用すると考えられる。小蛾類による加害は、落下前種子においても落下後種子においても確認されたが、ゾウムシ、キクイムシ類によるものと比べて極めて少なかった。同成熟度および同時期における落下前種子と落下後種子の昆虫による食害率を比較すると、いずれも落下後種子の食害率が著しく高くなったことから、植物もしくは昆虫側のどちらかが、昆虫に加害された種子を選択的に落下させている可能性が示唆された。


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