| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) M01-09 (Oral presentation)
植物を利用する植食者は多様であり、植食者の種類によって、有効な防衛機構や植物の適応度への影響も変化する。ミズヒキでは、展葉初期にドクガの幼虫による食害が多く、その後ハダニによる食害が増加する。これまでに、展葉初期にドクガの食害を受けない個体では、ハダニの食害が増える傾向にあることが示されており、2種類の植食者に対する抵抗性の強さに個体間で差があることが示唆されている。
本研究では、まず、ドクガの食害がハダニの食害に与える影響を明らかにした。展葉期である4月に、野外に生育するミズヒキを、葉に食害を受けていない個体(無傷個体)、既に葉に食害を受けていた個体(被食害個体)に分類し、さらに一部の無傷個体にドクガ幼虫による食害を人為的に与えた(ドクガ処理個体)。その後、開花期初期(9月)にドクガおよびハダニによる被害率を測定した。その結果、ドクガ処理個体では、ドクガの被害率が高いほどハダニの被害率が低下した。このことから、ドクガの食害はミズヒキの誘導抵抗性を引き起こし、ハダニの食害に影響することが考えられた。
さらに、ドクガの食害がミズヒキの種子繁殖に与える影響を調べたところ、ドクガ処理個体では、ドクガによる被害率が高くなると花序数が減少した。したがって、展葉初期にドクガの食害を受けない個体では、初期の抵抗性を高める一方、その後の食害に対する耐性が低いことが示唆された。一方、被食害個体では、被害率と花序数に関連は見られず、食害を多く受けても種子繁殖が低下しなかった。このことから、展葉初期に自然状態でドクガの食害を受ける個体は、初期の抵抗性は低いが、食害に対する耐性があることが示唆された。以上のことから、ミズヒキの集団内では、2種類の植食者に対する抵抗性や耐性が個体間で異なり、その違いが両植食者の密度に影響を与えている可能性が考えられる。