| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) M01-11 (Oral presentation)
「アリ植物」とは、幹やトゲなどの器官を空洞化し、そこにアリを営巣させる植物である。多くのアリ植物は、体内に営巣するアリ(共生アリ)の排他的行動により、植食者や病原菌に対する防衛効果を得ている。このようなアリによる防衛は「アリ防衛」と呼ばれ、一般に非常に高い被食防衛効果を示すが、共生するアリの種類や状態によってその効果は大きく異なっている。東南アジア熱帯に25種以上が分布するトウダイグサ科オオバギ属のアリ植物種は、複数種が同所的に分布することから、植物−アリ相利共生関係の進化・維持機構を研究するよいモデル系となっている。オオバギ属アリ植物は主に攻撃性の高いシリアゲアリによるアリ防衛を行っているが、近年、化学擬態などの特殊な戦略によってアリ防衛を無効化しオオバギを寄主利用するシジミチョウやナナフシなどの植食性昆虫の存在が明らかになってきた。これらの植食性昆虫の寄主選択性は、寄主のアリ防衛強度と強い関連があると考えられる。彼らの寄主への適応・進化過程を明らかにするために、オオバギのアリ防衛強度の種間変異をできるだけ正確に測定することが必要となる。これまでは、アリを植物から除去した場合の食害率を通常時の値と比較することでアリ防衛強度を測定してきたが、この方法は少なくとも数週間の時間を要し、アリ除去に労力がかかるうえ、植物に与える損害が大きいという難点があった。発表者らは、オオバギ属の非アリ植物種を寄主利用するシジミチョウ幼虫をオオバギ各種の葉に導入し、共生アリの反応を数値化することによって、アリ防衛強度を評価する方法を考案し、その有効性を検証した。この生物検定法は、従来のアリ除去実験に比べ少ない労力で行え、植物に与える害も少ないため、特に調査人員が少なく調査対象の植物個体数が限定される場合に有効な手段となる。講演では、このアリ防衛強度測定方法を活用した今後の研究展開についても議論したい。