| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-B-028 (Poster presentation)
西表島はその生態系の希少性から、近年ほぼ全域が国立公園に指定された。しかし、人間の居住地付近では土地利用による人為的攪乱が少なからず生じる。人為的攪乱による森林の分断は多くの生物の生息に適さないと言われており、生態系への影響を正しく評価する必要がある。本研究では種数・個体数に富む甲虫を指標とし、人為的攪乱が生物多様性に及ぼす影響を推測することを目的とした。
琉球大学熱帯生物圏研究センター西表研究施設の照葉樹二次林を調査地とした。標高は約35 mである。調査地内に林内区、林縁区 (草地、林道、林道+伐採木)の4種類の調査区を設定し、計20基の衝突板トラップを設置した。調査は2016年5月から12月まで継続し、約6週おきにトラップの内容物を回収した。各調査区における甲虫群集について、多様度指数H’を用いてα多様性を、類似度指数Cλを用いてβ多様性を検討した。また、各調査区で特異的に採集されたユニーク種の種数から、γ多様性への貢献度について考察した。
各調査区において甲虫群集の多様度指数に差は認められず、人為的攪乱は甲虫群集のα多様性に影響を及ぼさないことが示された。しかし、類似度指数を見ると各調査区間で甲虫群集の種構成に差異が生じており、また、各調査区にそれぞれユニーク種が存在することから、これらの攪乱は結果としてβ多様性およびγ多様性の上昇に貢献していた。また、甲虫群集全体では林内区と林縁区との類似性が低くなった。一方で、相対優占度の高かったケシキスイ科、キクイムシ科、コメツキムシ科に注目すると、群集構造は林縁区 (草地)とその他3調査区との類似性が低くなった。この対照的な結果から、人為的攪乱によって優占種以外の種構成が変化することが判明した。さらに、伐採木の存在は甲虫の種数を増大させることが示されたため、甲虫の種多様性維持の観点では、施業や台風で生じた枯死木を取り除かないことが望ましいと考えられる。