| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-B-042 (Poster presentation)
インド・太平洋のサンゴ礁海域に幅広く分布するオニヒトデは、ミトコンドリアの部分領域を用いた系統地理学的解析によりインド洋と太平洋では別種であることが示されている(Vogler et al. 2008)。この種分化は過去の氷河期による海水面の低下によりインド・太平洋間の海域が陸地化することで集団が物理的に分断したことに起因すると考えられている。さらに現在では両洋の2種のオニヒトデが同所的に生息する海域において種間交雑はほとんど起きていないことが核遺伝子解析により示されている(Yasuda et al. 2010)。海中で受精させるオニヒトデ近縁2種が同海域で生殖隔離を成り立たせるためには、同種認識に関わる受精関連遺伝子の種間変異が種内変異よりも大きいと考えられる。本研究ではこの仮説を検証するためにオニヒトデの受精に重要な同種の配偶子を識別する為のタンパク質である精子側のバインディンと卵側のバインディンのレセプターであるEgg Bindin Receptor (EBR1)をコードする遺伝子に関し、オニヒトデ近縁2種間のアミノ酸配列を決定し比較した。さらに自然選択に対して中立なミトコンドリアゲノムの全長配列との比較を行った。その結果、ミトコンドリア同様に卵側のEBR1遺伝子では予測通り種間で配列の違いが見られたが、精子側のバインディン遺伝子では2種間に種を識別できるようなアミノ配列の違いを検出できなかった。このことから以下が考えられた。1) 同所的に生息する海域においても2種間で産卵時期が異なるために受精遺伝子に違いを持つ必要がなかった。2) 生殖隔離が受精・発生後の2種間の遺伝的な不親和性によって生じているために雑種の生存率が低く、両種のアイデンィティが保たれた。一方、バインディンのアミノ酸配列に多くの種内多型が見られたことから、何らかの生態学的意味をもつ平衡性選択が働いている可能性がある。