| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-B-043 (Poster presentation)
サンゴの生息北限地である日本近海では近年の温暖化に伴って海水温が上昇し,造礁サンゴ複数種が北上していることが文献調査によって確認されている.しかし,近年の遺伝子解析によりサンゴは形態では判別できない隠ぺい種が存在していることが明らかになっている.今後,沿岸環境の保全に役立てていくためには,こうした北上しているサンゴにおける隠ぺい種の存在とその分布をまず、遺伝的に明らかにする必要がある.そこで本研究では,黒潮流域におけるクシハダミドリイシ(Acropora hyacinthus),エンタクミドリイシ(Acropora solitaryensis),スギノキミドリイシ(Acropora muricata)の類縁種を採集し,個々の分布を遺伝的に明らかにするため,複数の核のマイクロサテライトマーカーを用いたクレード解析を行った.黒潮流域における合計41地点で採集したミドリイシ属サンゴ合計1384個体を使用した.これらのゲノムDNAを抽出し,マイクロサテライトマーカー10遺伝子座をPCRにより増幅しジェノタイピングを行った.隠蔽種の分布を推定するためにソフトウェアSTRUCTUREを用いたクレード解析を行った.合計39地点を対象にクレード解析を行ったところ,クシハダミドリイシ類縁種において独立した3つのクレードが見つかった.一方,エンタクミドリイシとスギノキミドリイシをあわせたサンプルに関しても同様のクレード解析を行ったところ,3つの遺伝的に異なるクレードを確認した.1つ目のクレードは主にエンタクミドリイシの形状を持つもので構成され,屋久島以北の温帯域のみで見つかった.2つ目のクレードは,エンタクミドリイシおよびスギノキミドリイシの形状を持つもの両方を含み,屋久島から館山までの温帯域および沖縄本島に分布していた.3つ目のクレードは,スギノキミドリイシの形状をもつもので構成され、石西礁湖および和歌山の2地点で見つかった.今後さらに各種のサンプル数および解析地点を増やして詳細に検証していく予定である.