| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-B-045 (Poster presentation)
水田は多量の殺虫剤が施用される農業景観の一つであり、水田生態系に対する殺虫剤の影響評価は生物多様性保全における大きな課題の一つとなっている。水田環境の中間捕食者としての役割を担うカエル類の多くは水田を主な生息域としており、卵から幼生期を田面水に依存している。殺虫剤の暴露をうける発生初期は生体内のあらゆる器官が形成される発生段階であり、化学物質による生体機能の攪乱は、その後の成育に重篤な影響を及ぼすと推測できる。さらに化学物質への感受性は近縁種であっても大きな差異があることや、種によって水田の利用形態や時期が異なることから、カエル類に対して殺虫剤リスクの種横断的な評価が必要である。
本研究では殺虫剤が無尾類の発生に及ぼす影響を評価するため、今日水田で広く施用されているネオニコチノイド系クロチアニジン、ジアミド系クロラントラニリプロール、およびネライストキシン系カルタップの3殺虫剤を対象として、水田で繁殖を行う野生種ニホンアマガエルとヤマアカガエルの2種、およびモデル生物アフリカツメガエルの卵から幼生に至る発生段階を対象とした暴露実験によって表現型レベルでの評価を行った。その結果、クロチアニジンおよびクロラントラニリプロールにおいて致死および奇形はみられなかった。一方、カルタップにおいてはニホンアマガエルにおいて0.02mg/L~0.2mg/L, ヤマアカガエルおよびアフリカツメガエルにおいて0.2mg/L~2mg/Lの濃度域で奇形の発生が観察され、2mg/L~200mg/Lにおいて100%の致死が生じた。奇形は、脊椎の屈曲および伸長不全、黒色色素の脱色、および水腫の発生で特徴づけられた。いずれも濃度依存的に発生率および重篤さが上昇したが、その発生濃度および表現型には種間差がみられた。本発表では、発生に対する殺虫剤曝露の影響を表現型レベルで明らかにすることに加え、アフリカツメガエルを用いた網羅的遺伝子発現解析によって殺虫剤で撹乱を受ける遺伝子群についての考察を行う。