| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-B-046 (Poster presentation)
湿地は、水生動植物をはじめとする多様な生物の重要な生息・生育場所であると同時に、多様な生態系サービスを提供する重要な生態系である。しかし、人口増加や開発にともなう土地利用変化、とくに農用地への転用により、湿地の面積は大幅に減少し、多くの湿地性動植物が絶滅の危機に瀕している。そのため、湿地生態系の保全と再生は世界規模での重要課題である。本研究では、人為的撹乱を強く受けた湿地生態系を対象に、土地利用履歴の違いが植生構造に及ぼす影響を解明し、湿地生態系の保全・再生に向けた基礎的知見を得ることを目的とした。対象地である中国東北部図們川下流域の敬信湿地はかつて、沼沢地や湖沼を含む広大な自然湿地が広がっていたが、1980年代以降、水田や養魚池への土地改変が進み、半分以上の自然湿地が失われた。2016年8月、土地利用履歴の異なる半自然湿地および自然湿地30箇所を選定し植生調査を行った。
全体の出現植物種数は39科、74属、114種であった。まず、種組成データを用いてDCAによるサイトおよび出現種の序列化を行った。その結果、第1軸では水深の浅い自然湿地や水田耕作放棄後長期間を経過した調査区が低い値に、放棄後初期段階の調査区が高い値にそれぞれ布置されたことから、水田耕作にともなう人為的撹乱の程度を示す軸と解釈された。これに対し第2軸は水深との相関が高く、また水深の深い自然湿地が高い値に、養魚池が低い値に布置されたことから、水深による環境傾度や、掘削を伴う養魚池利用による撹乱の程度を示す軸と推察された。つぎに、種数および群集非類似度を指標として、湿地の再自然化による植生回復パターンを検討した。Bray-Curtiyの非類似度係数を用いて調査区間の出現植物種の類似性を比較した結果、自然湿地と水田耕作放棄後20年の調査区の間で高い類似性が認められ、湿地植生の回復には20年程度の期間を要することが示唆された。