| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-B-048 (Poster presentation)
東南アジアや南米の熱帯雨林の樹木には同所的近縁種が多いことが知られている。一方、樹木の持つ形質には系統保守性が存在することが分かっており、一般的には、生態特性の似ている近縁種が同所的に共存することは難しいと考えられている。そのため、熱帯雨林樹木の種多様性がどのようにして維持されているのかを理解するためには、同所的近縁種の共存メカニズムを明らかにすることが重要である。本研究では、マレーシアボルネオ島ランビル国立公園に生育する同所的近縁種の多い分類群(フトモモ科Syzygium属とフタバガキ科Shorea属)について、生態特性と系統の関係を解析し、同所的近縁種の生態特性に系統保守性が見られるかを検証した。ランビル国立公園には、面積52 haの調査区が設置されており、5年ごとの毎木調査から、全ての樹種の生態特性(更新率、死亡率、サイズ構造、ハビタット)が分かっている。また、調査区内に生育する各種1~5個体から葉を採取し、葉緑体DNAの3領域(rbcL、matK、trnH~psbA)の塩基配列決定して分子系統樹を作成した。最大サイズ、死亡率、更新率、成長速度、ハビタットの5つの生態特性について系統保守性を解析した結果、Shorea属でハビタットに有意な系統保守性が見られた以外には、有意な系統保守性は認められなかった。一方で、Shorea属を除いたフタバガキ科では有意な系統保守性が見られた。また、系統樹の分岐点ごとにクレード間の生態特性の違いを算出したところ、Shorea属以外のフタバガキ科では新しい分岐点になるほどクレード間の違いが小さくなったのに対して、Shorea属とSyzygium属では、最近の分岐点でもクレード間の違いは小さくならなかった。これらの結果は、同種的近縁種が多い分類群では、系統的に近い種でも生態特性があまり似ていないことを示しており、近縁種間の共存が生態特性の違いによって維持されている可能性を示唆する。