| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-B-054 (Poster presentation)
岩手県の河川に遡上するサケ (Oncorhynchus keta) は、北上川群と沿岸河川群の2集団にわかれることが、近年の集団遺伝学的研究によりわかっている。北上川群は水温が高い10月上旬に、沿岸河川群は水温が低くなる12月上旬に遡上盛期を迎える。遡上距離も北上川群は沿岸河川群と比較して長いことから、遊泳能力や至適水温範囲は2集団間で異なると考えられるが、その実態は明らかでない。そこで、本研究では異なる水温条件下で遊泳試験を行うことで、北上川群と沿岸河川群の遊泳能力と至適水温範囲を検討した。
沿岸河川群には、岩手県釜石市を流れる甲子川の河口付近で捕獲された遡上親魚を用い、北上川群には宮城県登米市の脇谷閘門で捕獲された遡上親魚を用いた。沿岸河川群の実験水温は8°C、12°C 、16°C (各水温区 n ≥ 3) に、北上川群は12°C、14°C、16°C、20°C (各水温区 n ≥ 3) に設定した。供試魚を一晩設定水温で馴致したのち、溶存酸素計付き循環水槽で遊泳試験を行った。循環水槽内の溶存酸素量変化より、標準酸素消費速度 (SMO2: Standard MO2) と最大酸素消費速度 (MMO2: Maximum MO2) を算出した。MMO2からSMO2を減じた有酸素代謝範囲 (AS: Aerobic scope) を求め、ASと水温の関係を北上川群と沿岸河川群で比較した。
SMO2は両群ともに水温上昇に伴い指数関数的に上昇していた。MMO2は沿岸河川群では12°Cが最大値を示し、16°Cで低下したのに対して、北上川群では少なくとも20°Cまでの水温では上昇する傾向にあることがわかった。遊泳能力の指標であるASの平均値は、沿岸河川群は8°C 、12°C、 16°Cで5.73、8.55、4.14 mgO2/kg/minを示したのに対して、北上川群では12°C、14°C、16°C、20°Cで7.41、9.89、8.45、8.77 mgO2/kg/minを示した。ASと水温の関係から、北上川群は沿岸河川群と比較し、広い水温範囲で高い遊泳能力が維持されることが明らかとなった。