| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-C-096 (Poster presentation)
琉球列島には,6種のクマノミ類が生息している.これらのクマノミ類とクマノミ類が共生する宿主イソギンチャク類は,岸からリーフエッジにかけて広く生息するにもかかわらず,これまで岸に近い浅場でしか調査が行われてこなかった.そこで本研究では,沖縄本島西海岸砂辺のリーフエッジに200 × 240 mの観察区を設置し, 2013年12月~2016年12月の3年間にわたり,1週間に1回の頻度で潜水し,クマノミ群集の動態を調査した.観察区に生息していた全てのイソギンチャク類とそれらに棲むクマノミ類を個体識別して追跡した結果,観察区に生息していた6種28個体の宿主イソギンチャクのうち, クマノミ類の成魚が繁殖場所として利用したのは5種14個体であった. 今回, クマノミ類4種の繁殖が確認され, 繁殖ペアの年間滞在率は, 2014年64%,2015年87%,2016年87%となり,従来の浅場での研究結果よりも高い値を示した.3年間で6種207個体のクマノミ類が加入してきたが,このうち成魚は9個体のみで,残りはすべて未成魚であった.消失ペアの回復には,同居していた未成魚,あるいは加入してきた未成魚が成長して性転換する場合がほとんどであった. 今回の観察では, 従来の研究で知られているような, 同種成魚の加入によるすみやかな繁殖ペアの形成は, ごく稀にしか起こらなかった.このように, リーフエッジでは, 多様な種構成を保ち, かつ繁殖ペアが長期間定着する傾向があり, 群集構造が安定していることが明らかになった. そのため, 新規加入の未成魚が繁殖場所を獲得するチャンスは少ない. しかし, 多様な宿主イソギンチャクが同所的に生息している砂辺のリーフエッジでは, 多種のクマノミ類の未成魚が加入し, 生育することが可能であった. その結果, 長期的に見ると, 個体が少しずつ置き換わりながら, 各種の個体数が維持され,群集の多様性は持続的に高く保たれると考えられた.