| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-C-098 (Poster presentation)
内水面の漁業協同組合によって放流される渓流魚の多くは,養魚場で長期継代された系統(継代魚)であり,自然環境下での適応能力の低下とそれに伴う生残率の低さが指摘されている.そこで放流魚の生残率向上を目指して,在来個体群のオスと長期継代のメスから作出した系統(半天然魚)を放流する手法が近年考案され,関連する研究が進められている.しかしながら,これらの異なる系統の渓流魚を対象に,実河川での生残率に違いが認められるかどうかを,調査地点による違いや過程誤差および観測誤差を考慮して解析した既存の研究事例はこれまでにない.
本研究では,2010年から2016年までに群馬県内の4河川6地点で実施したイワナ継代魚と半天然魚の稚魚放流試験の結果より,放流10日後から最大443日後までの期間において採捕調査で得られた個体数から,Petersen法もしくは除去法で推定された生残個体数を解析データとして用いた.なお,生残個体数の推定方法,放流個体数,調査日および調査回数は地点毎に異なっていた.各地点における各系統の生残個体数の時系列データに対して,階層ベイズモデルの一種である多変量状態空間モデルを構築し,MCMCによるパラメータ推定を行った.
得られたパラメータの事後分布から,地点によって生残係数(1週間の生残率)が大きくばらつくにもかかわらず,半天然魚の方が継代魚よりも放流後の生残率が高いことが示された(生残係数の範囲:半天然魚,0.420–0.962;継代魚,0.225–0.909).したがって,イワナ継代魚の代替として半天然魚を放流する際,この生残率の違いを考慮することで,継代魚と同等の生残数を確保する上で必要な半天然魚の放流量を推定することが可能になった.