| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-C-102 (Poster presentation)
生物の保全対策には生態的,景観的,遺伝的などの様々な情報が必要である.その中でも遺伝的情報に基づく集団構造の推定は,集団間の遺伝子汚染を防ぐと共に,集団内の遺伝子流動を妨げないように配慮した保全管理単位の決定に有効である.特に近年では,次世代シーケンサーをはじめとする技術革新によってより詳細な解析が可能となっている.
本州の高山帯にのみ生息するニホンライチョウ(Lagopus muta japonica)は,世界のライチョウの最南限に隔離分布する日本固有亜種の鳥類である.しかし,近年の調査によって,1984年以前に約3000羽と推定されていた個体数が,2009年時点で2000羽未満まで減少したと報告されている.このような状況を受けて,2012年公表の環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠB類に引き上げられ,2014年から保護増殖事業が開始されている.そこで本研究では,遺伝的視点から保全管理計画に寄与することを目的として,次世代シーケンサーを使ったゲノムワイドなSNP解析による集団構造の検出を試みた.
2001~2016年にかけて,北アルプス,南アルプス,および頸城山塊など計10カ所の山域で採血された,189個体の血液から抽出したnDNAをサンプルに用いた.2005年以前のサンプルは,劣化によってDNA濃度が著しく低かったため,微量なDNAからでもジェノタイピングが可能なMIG-seq法を用いた.Stacksによるアセンブルを行い,最終的に得られた241座のSNPを解析した結果,南アルプスの集団が他の集団との間で顕著な遺伝的差異が見られることが明らかとなった.また,北アルプスの集団と頸城山塊の集団との間ではわずかな遺伝子流動が見られるものの遺伝的構成が異なる傾向が見られた.本発表では,集団遺伝学的解析から得られた情報を元に,本種における効果的な保全管理単位についての考察を行う.