| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-C-110 (Poster presentation)
両生類は地球上で最も絶滅の危機に瀕している分類群である。そのため、それらの分布や個体数を制限する要因を明らかにすることは急務である。両生類は一般に幼生期は水中、変態後は陸上と生息地を変えるため、個体数の制限要因の解明には、幼生・成体期双方の環境要因を考慮する必要がある。しかし、先行研究では幼生期に注目したものが多く、成体に関わる環境要因について十分に分かっていない。また、成体はある程度移動するので、生息地間の連結性が個体群に影響する可能性があり、環境要因の評価の際に連結性も同時に考慮する必要がある。従来の連結性指標では生息地間を直線距離で表すことが多い。しかし、近年景観遺伝学の分野で使われているサーキット理論は、生物のランダムウォークと景観の異質性を考慮して移動経路を推定するので、生物の移動分散をより適切に表現でき、個体数を目的変数とした連結性評価にも有用なツールと考えられる。本研究では、関東の里山域に生息し、絶滅危惧種のトウキョウサンショウウオを対象に、水域と陸域の環境および生息地の連結性を統合した評価をし、個体数の制限要因の解明を目指した。そのため、景観スケールで繁殖地を網羅的に調査し、計52本の小渓流で調査を行った。
解析の結果、本種の卵のう数は、産卵地周辺の森林を構成する樹の胸高直径が小さいほど多かった。これは、本種が遷移初期の森林を好むことを示唆している。さらに、水温と卵のう数間、水温と胸高直径間に正の関係があったことから、遷移初期の明るい森林は産卵地の水温を上げ、幼生の生存率や渓流の生産性を上げている可能性がある。また、林床の生産性を通してエサ生物の量や活動性を増やし、成体の生存・繁殖率を上げている可能性もある。さらに、サーキット理論を用いた連結性は従来のものより説明力がはるかに高く、市街地が本種の移動を強く制限し、生息地の分断化等をもたらしていることが推測された。