| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-C-111  (Poster presentation)

都市近郊における低移動性昆虫クツワムシの集団遺伝構造

*今井達也(東大・農), 清川紘樹(東大・農), 今藤夏子(国環研), 中島信美(国環研), 長谷川雅美(東邦大・理), 宮下直(東大・農)

近年、開発による自然環境の分断化が進行しており、特に都市近郊での進行は著しい。分断化はそこに生息する生物の局所絶滅リスク増大を引き起こすが、このリスクは他の生息地からの移入により軽減することができる。よって優先して保全すべき場所を特定する際は、分断された生息地間を生物が移動できるような、生息地間の連結性を考慮する必要がある。生物の移動は、生息地間の景観要素(マトリクス)の影響を受けるため、連結性を評価する際は単純な直線距離だけではなく、マトリクスに対する生物の行動的応答を考慮した機能的連結性を推定する事が求められる。近年考案されたIBR (Isolation by Resistance) は、電気回路や社会ネットワーク等の連結性評価に使われるサーキット理論を遺伝子流動のモデルとして応用したもので、異質景観下における生物の移動をもとにした機能的連結性を推定する上で有用であると考えられる。
分断化の影響を強く受けやすいのは低移動性の生物であるが、クツワムシはその例であると考えられる。クツワムシは疎林や林縁に生息し、我々に馴染みの深い昆虫であったが、現在では複数の県で絶滅危惧Ⅰ類やⅡ類に指定されている。本研究ではクツワムシを用いて、遺伝子流動を指標とした生息地の機能的連結性を明らかにする。仮説として、①分断化景観のクツワムシは、集団毎に強く遺伝的分化している、②森林・草地が連続している集団間で高い連結性が見られる、の2つを立て検証した。

調査は、かつて放牧地や二次草地が広がっていたが、現在は都市化とそれに伴う分断化が進行している千葉県北総地域で行った。遺伝的多型はMIG-seqにより探索したSNPで推定した。遺伝子流動に影響する景観要素や移動経路をCIRCUITSCAPEで求め、遺伝的距離と景観距離の関係を調べることで推定した、クツワムシの遺伝子流動を抑制・促進する景観要素について報告する。


日本生態学会