| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-C-112 (Poster presentation)
近年、全国的にニホンジカ(以下シカ)の分布拡大が続き、シカが過密化した地域では、下層植生が衰退・消失し、生態系への悪影響が危惧されている。しかし、シカの侵入初期の段階から食害の程度を追って、植生にどのような変化が起きていくのか時系列で記録した研究はほとんどない。そこで、シカが侵入後、時間経過に伴って植物に対する嗜好性に変化があるのか、どのくらいの時間スケールで森林下層植生に変化があるのか、どの植物がシカの採食に対して脆弱であるかを検討した。環境省のニホンジカ生息分布拡大状況調査を参考に、秋田県と岩手県の森林について、シカの分布が新たに確認された4つの年代1978年・2003年・2011年・2014年に分類した。各年代で2か所以上(計12ヵ所)の調査地を設定した。各調査地で植生調査・食痕調査と光学顕微鏡とDNAバーコーディングを用いた食性解析を行った。
2014年にシカの分布が新たに確認された場所(以下、2014年侵入地とする。他年代も同様。)では、ほとんど被食はなかった。2003年侵入地と1978年侵入地でササと多年生草本の被度が低く、1978年侵入地ではつる性植物の被度も低かった。食痕調査と食性解析から、2014年侵入地以外でササへの採食がみられ、1978年侵入地でつる性植物や木本植物への採食が高かった。食痕の程度を時系列によって植物を分類すると、大きく4つに分かれた。9種において、2014年・2011年侵入地で被食を受けている植物が見られた。以上により、侵入年代によってシカの嗜好性が変化し、それに伴い下層植生も変化していることが明らかになった。特にシカが侵入後10年以降に下層植生の衰退が進行すると考えられる。シカ侵入後5年経過している地域でも採食を受けていた植物種は嗜好性が高く、脆弱である可能性が高い。侵入時期に応じた種レベルで植物の保全策を考えることが重要である。