| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-C-118 (Poster presentation)
有性生殖の進化は生物学の興味深い謎の一つである.有性生殖は個体群の増殖に寄与しない雄個体を産むことに資源の半分を投資するため,無性生殖に比べて短期的に明らかなコスト(2倍の性のコスト)を負う.特に種群内で有性型と無性型が共存するためには,有性型は短期的に2倍の性のコストを補償する利点が必要となる.フナ属魚類には有性の2倍体と,その精子を利用する雌性発生の3倍体が同所的に生息する.近年,この雌性発生の3倍体において,稀な有性生殖により有性2倍体から核およびmtDNAの遺伝子流動を受けることで新たなクローン系統が創出されることが示唆されている.本研究では,有性型と無性型が東アジアの淡水域に広く共存するフナ類をモデルに,両型の共存機構の解明を目指して,有性型が有利となる環境条件の探索を行った.日本の広域にわたる多数の水域(川,池,湖)から採集されたフナ類について,mtDNAと核DNAマイクロサテライトに基づく集団構造および遺伝的多様性を踏まえた上で,有性型と無性型の頻度の気候および地理的なパターンを調べた.その結果,有性型のみからなる集団は極わずかであり,有性型の頻度は緯度に関連する環境(年平均気温・降水量)に対して負の相関を示した.また,分析されたすべての無性型は有性型とmtDNAハプロタイプを共有し,各クローン系統の進化的歴史は浅いものと推定された.以上の結果は,フナ類の有性生殖の利点として,緯度と関連する要因(例えば,病気の感染率,集団サイズ,溶存酸素量など)が関係することを示唆するが,その利点の効果は,2倍の性のコストを上回り無性型を短期的に競争排除できるほど大きくないと考えられる.一方で無性型は,有性型からの稀な遺伝子流動を介して時折生じる新たなクローン系統により,遺伝的多様性を保ちながら存続している可能性がある.