| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-C-122 (Poster presentation)
草食獣の増加に伴う過採食による下層植生の衰退は、植食性昆虫にとっては餌資源や生息環境が減少することとなり、個体数や種数の減少にもつながる。一方、草食獣の過度な採食圧は、植物の形態的・生理的変化を引き起こし、植物の栄養価等を変化させる。一般的に、餌資源の栄養価の変化は、その餌を利用する昆虫の生活史や形態に影響を及ぼすことが知られる。これまでの研究では、草食獣の過採食による植食性昆虫への影響は個体数や種数の変化といった量的な応答のみが知られるが、餌資源の質的な変化を通した、間接的な形態への応答の存在は知られていない。
そこで、本研究では植食性昆虫類の中で、食性の多様性が高い蛾類(鱗翅目)を対象に、シカの過増加が蛾類の形態に及ぼす影響を検討した。具体的には、蛾類の食性を、低木・草本食もしくは高木食、スペシャリスト種もしくはジェネラリスト種に分類し、それぞれの分類群において翅サイズの変化にシカの生息密度が影響の有無を検証した。調査では、シカが高密度で生息する北海道洞爺湖の中島と低密度である湖畔において蛾類で採取した。
野外で採取された蛾類から食性が判明している13種を選定し、測定・解析を行った。その結果、低木・草本食のジェネラリスト種の3種(4種のうち3種)で、高木食のスペシャリスト種1種(3種のうち1種)で、中島で得られた個体の前翅長および翅面積が、湖畔で得られた個体と比較して有意に小さいことが示された。寄主植物が多岐にわたるジェネラリスト種は、シカの過採食に伴い、中島では湖畔と比較して蛾類の利用できる質の高い寄主植物が減少し、寄主植物が質の低い植物種へ変化したことで、成虫の翅サイズが小さくなった可能性が考えられる。以上の結果から、シカの過採食による植食性昆虫への新たな影響の可能性が示唆された。