| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-D-133 (Poster presentation)
アカテガニ(Chiromantes haematocheir)は通常森林内に生息しているが,夏季になると夜間浜辺で放仔行動を行うことが広く知られている.しかしなぜ海洋に回遊してゆくのかその理由については十分明らかにされていない.本研究では,アカテガニが幼生期を海域で過ごす理由を明らかにするためその栄養要求に着目し,放仔直後の幼生を用い飼育実験を行った.飼育実験は実験Ⅰ,実験Ⅱの2セット行い,実験終了時の生残率を比較した.実験Ⅰは給餌する餌料により5処理(処理1:無給餌,処理2:淡水クロレラ,処理3:ナンノクロロプシス,処理4:一次培養ワムシ,処理5:二次培養ワムシ)を,実験Ⅱでは異なる餌のサイズとその給餌時期を検討するため,より大きいサイズの餌であるアルテミアを与える時期により6処理を設けた.
この結果,実験Ⅰでは海産クロレラを用い培養した動物プランクトンでのみ,メガロパまで成長したのに対し,淡水クロレラで培養したワムシや海産クロレラではメガロパまでの成長は見られなかった.実験Ⅱから幼生がある程度成長した段階でアルテミアを給餌することにより,生残率が向上することが明らかとなった.以上の結果から,幼生期には海洋由来の栄養素を含んだ動物プランクトンが必要であり,また餌料の大きさや栄養要求などの面から単一の餌ではなく,成長に合わせた様々なサイズの餌を必要とすることが明らかとなった.この実験から室内でアカテガニの幼生を飼育し稚ガニを得ることが可能となり,現在沿岸環境の改変で激減している個体群に対する回復を手助けできる一つの手段となる可能性も示された.