| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-D-144 (Poster presentation)
福井県と岐阜県の境界に位置する夜叉ヶ池のみに生息しているヤシャゲンゴロウAcilius kishii(以下ヤシャ)は、その希少性から国内希少野生動植物種に指定され、生息地が保全されている。しかし近年、池の水質悪化の影響で個体数が減少している可能性が指摘されている。個体数の減少に伴い遺伝的多様性が低下すると、近交弱勢により絶滅のリスクが高まる恐れがあるため、本種の遺伝的多様性の実態を早急に解明する必要がある。また本種に極めて近縁な種として北日本に広く分布するメススジゲンゴロウAcilius japonicus(以下メススジ)が知られているが、両種の系統学的位置づけは集団遺伝学的見地から検証されていない。ヤシャの適切な保全単位の設定には、両種の系統学的位置づけを明らかにする必要があると考えられる。そこで本研究では、両種の集団遺伝構造解析の結果を比較し、ヤシャの遺伝的多様性の実態と、系統学的位置づけを明らかにすることを目的とした。
ヤシャ31個体(環境省の許可を得て採集)、メススジ(7集団:北海道3集団、東北2集団、中部2集団)90個体について、マイクロサテライト(SSR)12マーカー及びミトコンドリア(mt)DNA(COI領域658塩基)を用いて、遺伝的多様性及び遺伝構造の解析を行った。
SSRマーカーによる遺伝的多様性解析では、ヤシャの遺伝的多様性がメススジよりも低いことが明らかとなった。SSRマーカーによる遺伝構造解析の結果、両種の全個体は北海道のメススジ、本州のメススジ、ヤシャの3グループに分かれることが示された。mtDNAによる遺伝構造解析の結果においても、ヤシャとメススジ間で明確な遺伝的分化が認められた。
以上の結果から、ヤシャは更なる遺伝的多様性の低下に注意しつつ、夜叉ヶ池を保全単位として保全活動を行っていく必要があると考えられる。