| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-D-149  (Poster presentation)

海洋投棄された廃タイヤによるヤドカリのゴーストフィッシング

*高辻貴一, 曽我部篤(弘前大・農生)

陸域に不法集積・不法投棄された廃タイヤが、悪臭や蚊、火災の発生源、水質・土壌の汚染源となる事は広く認知された環境問題である。水域においても有害物質の溶出や環境の物理的破壊など、廃タイヤによる水域生態系への負の影響が近年示唆されている。演者らは、沿岸の砂泥海底に不法投棄された廃タイヤの内側に、大量の巻貝の殻やヤドカリが存在する事を発見し、廃タイヤによりトラップされたヤドカリが脱出できずに死んでいる可能性を指摘した。そこで陸奥湾沿岸の水深6-8mの砂泥海底に6基の廃タイヤを設置して、タイヤ内側に侵入したヤドカリを月1回採取し、その数と種類、体サイズを1年間継続的に調査した所、主にケブカヒメヨコバサミとユビナガホンヤドカリからなるヤドカリ類が1年間で計1,279匹見つかった。採取される個体数は冬期に増大し、春から初夏にかけて減少する傾向があり、平均するとタイヤ1基で1日あたり0.58匹のヤドカリがトラップされた事になる。加えて、タイヤ内側のヤドカリが外側へ脱出できない事を確かめるため、廃タイヤを設置した海底環境を模した水槽で実験を行った。その結果、タイヤ外側から内側への侵入はユビナガホンヤドカリでは全実験の66.6%、ケブカヒメヨコバサミでは50%で起こっていたが、タイヤの内側から外側への脱出は2種いずれでも起こらない事を明らかにした。以上の結果から、海洋投棄されたタイヤの内側に侵入したヤドカリが、タイヤの構造上脱出する事が出来ずに死んでしまう、いわゆる「ゴーストフィッシング(幽霊漁業)」と呼ばれる現象が、自然界で起きている事が強く示唆された。


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