| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-D-151 (Poster presentation)
埼玉県南東部の荒川河川敷に位置する田島ケ原サクラソウ自生地は,希少な湿生植物群落が発達することから国の特別天然記念物に指定されている。自生するサクラソウの個体数(ラメット)には年変動がみられ,2003年の約235万個体を境に減少に転じ,現在はその半数以下である。この一因として,自生地内でノウルシが卓越するようになり,サクラソウを著しく被陰したことが指摘される。しかし,ノウルシも準絶滅危惧種であることから,両種の保全を考慮した管理手法の確立が求められる。本研究ではノウルシの除去実験を行い,ノウルシの除去を最小限に抑えつつ,サクラソウ個体群を再生させる管理手法について検討した。
野外調査は,ノウルシがサクラソウを被陰する箇所において2016年4~10月に実施した。除去実験では対照区に加え,半径20cm円内に出現するノウルシを除去する20cm除去区,同様に40cm除去区,60cm除去区の4条件を設け,5回反復した。各調査区に方形区(1m×1m)を設置し,植生調査を1週間~1ヶ月の間隔で計13回実施した。また,除去処理が環境に及ぼす影響を把握するため,光量子束密度,土壌硬度,土壌体積含水率を同日に測定した。
その結果,除去区の3条件では,4~5月の光量子束密度が対照区より高くなるものの,3条件間での有意差は検出されなかった。土壌硬度と体積含水率でも条件間で顕著な差が認められなかったことから,ノウルシの除去処理は土壌の物理性には関与しないことが示された。5~6月のサクラソウの植被率は条件間で差異が認められ,40cm除去区と60cm除去区で高い値を示した。しかし,60cm除去区ではノウルシと同様にサクラソウを被陰するコバギボウシの生育を促進し,40cm除去区より早い時期からサクラソウとの光競合が始まる結果となった。以上から,半径40cmの範囲に出現するノウルシおよびコバギボウシを除去する管理手法がサクラソウ個体群の再生に適切と結論づけた。