| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-D-154 (Poster presentation)
近年,多くの自治体で緑化事業が推進され、緑地の重要性に対する認識は広がっている。緑化事業の費用負担者は住民であるため,緑化事業の実施を検討する際には住民の選好に配慮する重要性も指摘されている。しかし,近年の研究により自然環境に対する住民の認識や理解に偏りがある場合が指摘されている。もしも自然環境から享受している便益についての住民の認識や理解が不十分である場合,住民の選好にもとづく緑化事業計画は合理性を欠くものとなる。
そこで本研究では,住民が認識していない緑地から便益を享受している可能性を検討する。そのために,GIS(地理情報システム)を利用して計測した実際の緑地面積のデータと,アンケート調査によって収集した回答者の主観的な緑量のデータの,二種類の緑地データを用いる。それぞれのデータについて,LSA(Life Satisfaction Approach)を応用して緑地の便益を測定し,求められた便益を比較検討する。結果として,認識している緑地からだけではなく,認識していない緑地からも住民は便益を享受していることが示唆された。このことは,住民の選好のみに委ねていては住民自身の満足度を最大化するような緑化事業が採択されないことを意味し,公共部門による適切な事業計画が必要となることを示唆する。さらに,都市緑地と森林を区別した上で分析を行ったところ,特に都市緑地について,認識していない部分から得ている便益が大きいことが明らかになった。
また本研究では,主観的緑量に与える都市緑地の種類の影響を考慮した分析を追加的に行った。都市緑地について,学校林,公園緑地,社寺林を特定した上で分析を行った結果,特に社寺林が主観的緑量を高めやすいことが明らかになった。社寺林は,他の都市緑地とは異なった生態学的特性を持っているので,そのことが主観的緑量に大きな影響を与える要因になったと考えられる。