| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-G-228 (Poster presentation)
ナラ枯れは、カシノナガキクイムシが共生菌をブナ科樹木の生立木に感染させることで寄主木が枯死する樹病である。ナラ枯れによって枯死したコナラにはハカワラタケが発生し、そこに菌食性昆虫やそれらを餌とする肉食性昆虫が出現することが確認されている。そこで本研究では、菌食性昆虫によるハカワラタケの利用様式と、ナラ枯れ木上の昆虫群集の推移を調べた。
調査は愛知県瀬戸市の東京大学赤津研究林・長期生態系プロットで行った。枯死年の異なる(2011年~2015年)コナラ枯死木を選定し、2016年4月~11月までの間、月1回の頻度で調査木上に見られる昆虫類とハカワラタケ子実体の状態を記録した。また、画像解析によってハカワラタケの被覆面積を算出した。そして、半翅目、鱗翅目、鞘翅目からハカワラタケ依存種を抽出し、子実体の状態を「健全」、「混在」、「劣化」に分類して、どの状態の子実体が菌食性昆虫に好まれるかを吟味した。具体的には、応答変数に各昆虫種の個体数を、説明変数に子実体の状態をダミー変数化したものを、ランダム効果として調査木個体と調査月を、オフセット項としてハカワラタケの被覆面積を設定し、一般化線形混合モデルを用いて解析した。
その結果、29種のべ3653個体が確認され、中でもキノコヒモミノガ、イボヒラタカメムシ、ケナガナガツツキノコ、タイショウオオキノコがハカワラタケ依存種であり、タイショウオオキノコを除く3種は健全な子実体を選好む傾向した。また、ハカワラタケは時間を経るごとに劣化していき、ナラ枯れも収束傾向であることから、これらの昆虫は今後個体数を減らしていくものと予測された。さらに、キノコゴミムシ等の枯死木依存性の肉食性昆虫は見られず、これらの昆虫を支えられるだけのハカワラタケや菌食性昆虫が森林内に存在しないと考えられた。すなわち、ナラ枯れによる恩恵を受けられる期間は、食性ギルドごとに異なるものと推察された。