| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-G-241 (Poster presentation)
近年、全国的にシカの採食による植生劣化が進行しており、様々な栄養段階を含む生態系全体の保全が急務となっている。本研究では、植生保護柵が広範囲に設置された地域と、シカの採食が進行中の地域が隣接している丹沢山地において、環境の変化に迅速に反応するオサムシ科甲虫を対象として、シカの影響による生態系の変化を段階的に捉えると共に、植生保護柵の保全効果を検証した。
シカの採食が現在進行中の菰釣山に、採食傾度の異なる調査地を設け、また加入道山の植生保護柵の内外に各3地点に調査地を設定した。各調査地でピットフォールトラップによりオサムシ科甲虫を捕獲し、環境傾度として植生、リター量、土壌動物数、開空度を調査した。
4回の調査により、21種494個体のオサムシ科甲虫が捕獲され、総捕獲数は菰釣山の採食圧のもっとも高い地域と、加入道山の柵外で多かった。これは最優占種であったヨリトモナガゴミムシが、シカの採食が進んだ環境を好むためと思われた。捕獲数上位種には植生量、またはリター量に支配的な影響を受けた種と、複数の要因から複合的に影響をうけた種が見られた。
ササの密度が自然状態(約360g/m2)から約190g/m2に減少する過程で、植生が多い環境を好むクロナガオサムシが減少した。更に植生が殆どない状態まで進行すると、ヨリトモナガゴミムシなどが増加し、オサムシ科甲虫群集の段階的な変化が確認された。
植生保護柵の中では植生が多い環境を好むクロナガオサムシが保全されていた一方で、シカの影響が進んだ環境を好むヨリトモナガゴミムシも捕獲された。植生保護柵は植物を必要とする種の保全に一定の効果があるものの、柵内の群集はシカの影響が進行した環境を好む種も含む特殊な種組成になる場合がある。