| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-K-329 (Poster presentation)
動物行動学における個性とは『個体間に見られる一貫した行動傾向の違い』と定義され、近年になって幅広い生物種でその存在が報告されてきている。性格の違いが生態的にどのような影響をもたらすのかといった観点には多くの関心が寄せられ、個性の多様性の意義を理解するうえで自然状況下における観察が必要とされる。本研究では、野外に生息するクローンのヤモリの個性と生息微環境を観察し、それらに対応関係があるかどうかを調べた。対象動物としたオガサワラヤモリ Lepidodactylus lugubris は単為生殖をおこなう爬虫類の一種であり、自然下に生息するクローン個体同士には性格の違いが確認されている。調査地の防風林は帯状であり、片側は道路に反対側は海に面している。この防風林に生息する個体群を対象に標識再捕獲法を用いて個体群動態を調査し、個体ごとの捕獲地点を記録した。また一部の個体に対しては行動実験をおこない、大胆さと探索性を評価した。3年間の調査で延べ440個体を捕獲し、約400㎡の防風林に100-300個体のオガサワラヤモリが生息していると推定された。また、本種は特定の樹種(モモタマナ)に密集しており、一ヵ月以内に再捕獲された場合には98%以上の個体が前回捕獲された木と同じ木から発見された。行動実験の結果と捕獲地点の情報を照合させたところ、ヤモリの大胆さには木ごとに違いがみられ、海側に位置する木には比較的大胆なヤモリのみが生息し、陸側に位置する木には臆病なヤモリも生息していた。以上の結果から、この防風林に生息するオガサワラヤモリは一本の木という単位で定住性が高くほとんど移動分散していないと考えられる。また、大胆さと生息微環境に関連がみられ、性格の違いが人通りというディスターブ環境の違いへの選択をもたらしている可能性が示唆される。