| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-K-336 (Poster presentation)
社会性の生物にとって自分たちの子を保護することは不可欠であり、高度な社会性を進化させたシロアリは特に手厚い卵保護を行う。このシロアリの卵保護行動を巧みに利用することで、シロアリ巣内で社会寄生する菌類が存在する。卵擬態菌核菌はターマイトボールと呼ばれる菌核(菌糸が密に集まった塊)を形成し、物理的(形、大きさ)にも化学的(卵擬態物質)にもシロアリの卵に擬態している。シロアリ巣内に卵が存在する夏期には、ターマイトボールはシロアリの卵と同様に卵塊中に運び込まれ、職蟻から抗菌物質を含んだ唾液で繰り返しグルーミングを受けながら保護されることで、競争者や捕食者から守られていることが知られている。しかし一方で、シロアリ巣内に卵が存在しない冬期における卵擬態菌核菌の生態は謎のままであった。今回我々は、卵擬態菌核菌は冬期にもシロアリ巣内に存在し、一時的にシロアリが不在となった蟻道中で増殖していることを突き止めた。冬期にヤマトシロアリの巣内を調査した結果、シロアリが不在の蟻道中から高頻度で卵擬態菌核菌が見つかり、形成途中のターマイトボールも多く見られた。さらに、冬期にシロアリ巣内から採集されたターマイトボールを実験室内で職蟻に与えると、夏季に卵塊中から採集されたターマイトボールと同程度に卵塊中に運び込まれることも確認した。これらの結果から、卵擬態菌核菌はシロアリ巣内に卵の無い冬期でもシロアリが不在の蟻道を利用して増殖しており、夏期が訪れると職蟻によって再び卵塊中に運び込まれ保護されることが示された。今回の発見によって、卵擬態菌核菌の巧みな生活史戦略の一端が明らかになった。