| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-K-341  (Poster presentation)

環境の時空間的予測可能性が低くても長距離移動は効果的か?:モウコガゼルの春の移動効果の検証

*今井駿輔(鳥取大学), 伊藤健彦(鳥取大学), 篠田雅人(名古屋大学), 恒川篤史(鳥取大学), Badamjav Lhagvasuren(モンゴル科学アカデミー)

長距離移動を行う有蹄類モウコガゼルは、環境の年変動と地域差が大きいモンゴル草原に分布している。環境条件の予測可能性が高い地域では、環境条件の時間的・空間的変化に沿った移動は効果的である。しかし環境条件の予測可能性が低い環境では、移動により食物獲得が向上しない可能性がある。そこで食物の量と質に注目し、2002年から2012年にアルゴスシステムにより追跡したモウコガゼル20頭、32例を対象として、春の移動の効果を検証した。食物量の指表には衛星画像から得られる正規化植生指数(NDVI)値を用いた。また、植物量と消化率との関係から植生の成長率の最大時にエネルギー獲得効率が最大になる理論に基づき、NDVIの相対増加速度(IRG)を食物の質も考慮した指標とした。移動モデルを用いて、1月以降最初の移動開始までに1カ月以上滞在した地域を冬の滞在地とし、移動開始後から8月末までの各指標の平均値を移動先と冬の滞在場所で比較した。5例は期間を通して移動が確認されず、移動した27例中22例は移動によりNDVIのIRGの両者またはいずれかが増加した。増加量はNDVIで最大68%、IRGは最大で194%だった。4例ではNDVI、IRGとも減少し、減少量はNDVIで最大52%、IRGで最大68%だった。NDVIの増加量は冬の滞在地の移動後のNDVI値と負の相関を(r2=0.3、P=0.003)、また、移動によるNDVI増加量とIRG増加量は負の相関を示した(r2=0.38、P=0.003)。これは、モウコガゼルの春の移動に重要な要因は地域によって変化し、食物量が小さい地域では食物量が、食物量が大きい地域では食物の質の重要であることを示唆する。しかし、移動により食物環境が改善しなかった例もあり、この地域の環境の予測可能性の低さが影響したと考えられる。


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