| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-K-345 (Poster presentation)
研究は,コウモリの野生下でのナビゲーションメカニズムを明らかにするため,北海道苫小牧市に生息するキクガシラコウモリに小型GPSロガーを搭載し,移動ルートの調査を行った.搭載した13個体中3個体の回収に成功し,全てのコウモリがねぐらから北西方向に飛行していたこと,また一晩に最大30 kmの移動を行うことなどを確認した.また,林道や谷に沿った移動場面からは,コウモリが地形情報に基づいたナビゲーションを行っていたことがわかった.また「移動」と特定場所での「停滞」に大別でき,ある地点を基点としたforay型の移動も数例見られた.そこで次に,独自に開発したGPSとコウモリの超音波放射時刻を同時計測可能なGPS音響イベントロガーを用いて,同観測地において1個のロガー回収に成功した.その結果,停滞時のコウモリは移動時の約2倍多く超音波を放射しており,採餌を行っていた可能性が考えられる.
さらにキクガシラコウモリの野生下での超音波運用の実態をより詳しく調べるため,兵庫県佐用郡にてマイクロホンアレイを用いた音響動態計測を行った.ねぐら付近のopen spaceと,木々で覆われたcluttered spaceで計測を行ったところ,パルス放射間隔が100-120 ms付近の単発でのパルス放射が多くみられた.一方,cluttered spaceのパルス放射間隔は40-50 ms でopen spaceより短く,また2,3つ連続でパルス放射していることがわかった.GPS音響イベントロガーで計測されたパルス放射間隔も100-120 msを中心に多く,open spaceと似た傾向が見られた.コウモリはセンシング距離や空間記憶の程度に応じてもパルス放射間隔を変化させる.長距離のナビゲーション中の移動軌跡に対して,音響情報との同時分析は,捕食地点の同定のみならず,探索戦術の分析にも非常に有用であると考えられる.