| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-K-347  (Poster presentation)

巻貝専食ヘビの左右性が果たす生態機能

*宮澤裕太郎, 浅見崇比呂(信州大学総合理工学研究科)

東南アジアに分布するセダカヘビ(3属20種)の多くは巻貝やナメクジの捕食に特化し、巻貝は殻から軟体部を顎で引き抜いて捕食する。巻貝専食とされるものは共通して、下顎の歯が左側より右側に多い。セダカヘビ全体の分布域周縁にあたる西表・石垣島のイワサキセダカヘビは、他種と比べ歯数の偏りが著しく、餌の巻き方向は識別せずに同一の行動でくいつくため、左巻きが大きいと捕食に失敗し、左巻きが生き残る。左巻きが小さいと捕食できるが効率が低い。これは、歯数の偏りが餌の大多数を占める右巻きの捕食に特化した結果であることを示唆する。右巻きから左巻きへの系統進化がセダカヘビの分布域で顕著なのは、左巻きが生存上有利だからと考えられる。左巻きが多様化した東南アジアにはトガリガタセダカヘビが広く分布し、その歯数の左右性は地理的に大きく変化する。トガリガタセダカヘビは、左巻きが大きいと捕食行動を回避し、噛みつく限りは巻き方向に応じて行動を変更し、捕食に失敗しない。だが、左巻きの捕食効率は著しく低い。この巻型の判別は、左巻きが多い環境で捕食コストを減らす進化的応答であると考えられる。以上から、セダカヘビの歯数左右性や巻型認知力は、種間および地域集団間で大きく異なり、餌資源に占める左巻きの割合に対し地域ごとに応答している可能性が高い。しかし、これらの先行研究で用いられた餌はすべて平型である。セダカヘビの多くは樹上性であり、東南アジアの樹上性巻貝は一般に尖り型である。しかも、尖り型のカタツムリには平型よりもはるかに多くの左巻きが含まれる。平型と尖り型では殻の形状が著しく異なり、捕食者の左右性が果たす機能も量的または質的に異なる可能性が高い。本研究はこの問題に答えることを目的として行った。殻の形状が異なる餌を用いて捕食実験を行い、セダカヘビの捕食行動と捕食効率を比較分析した結果をもとに議論する。


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