| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-K-348  (Poster presentation)

アカウミガメは光の強さによってはばたき周波数と遊泳速度を変える

*木下千尋, 福岡拓也, 楢崎友子, 佐藤克文(東京大学大気海洋研究所)

生物は移動コストを最小とする速度で移動していると考えられており、その速度は休止代謝速度と抵抗係数によって左右される。しかし、昆虫のマルハナバチや鳥類のキングペンギンでは、光が弱くなるにつれ移動速度が遅くなることが報告されている。これは、視覚を頼りにする生物間において共通で見られる応答だと考えられている。海棲爬虫類のアカウミガメは主に視覚を頼りにして、昼夜を問わず採餌を行っていると考えられている。視覚を頼りにしているなら、光の強さによって遊泳速度が少なからず変化すると考えられるが、野生のアカウミガメにおける光の強さと遊泳行動の違いはこれまで調べられてこなかった。本発表では、光の強さが異なる日中と夜間のアカウミガメの遊泳速度と、遊泳努力量を示すはばたき周波数の違いについて報告する。
2010から2016年の7月から9月にかけて、三陸沿岸域の定置網にて混獲されたアカウミガメ亜成体の背甲に行動記録計(n = 10、測定項目: 遊泳速度・深度・温度・3軸加速度)を装着し、放流後の行動を追跡した。日の出から日の入りまでを「日中」、日の入りから日の出までを「夜間」とし、昼夜の遊泳速度とはばたき周波数を比較した。はばたき周波数は前後方向の加速度から計算した。
8個体から合計592時間の遊泳速度と10個体から合計685時間のはばたき周波数のデータを得た。その結果、遊泳速度は日中のほうが速く(日中: 0.41±0.09 m/s, 夜間: 0.32±0.04 m/s, AIC = -33.20, n = 8)、はばたき周波数も日中の方が高くなった(日中: 0.27±0.03 Hz, 夜間: 0.24±0.05 Hz, AIC = -79.28, n = 10)。平均滞在深度は日中、夜間ともに10 m以浅であった。この結果から、アカウミガメの遊泳速度とはばたき周波数が変化する要因の一つに、光の強弱が関連していることが示唆された。視界が狭く餌の発見距離が短くなる夜間は、遊泳速度を落として、視界に入る情報の処理にかける時間を確保していると考えられる。


日本生態学会