| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-K-349  (Poster presentation)

コントラストに惑わされるアズキゾウムシ

*大竹遼河, 土畑重人(京都大学)

私たちは物事を比較して相対的に価値を判断している。比較対象はそれと似た他のものや、過去の状態である。比較対象の存在によって、同じものであっても価値は変化する。この現象はコントラスト効果と呼ばれており、ヒトだけでなく他の生物においても確認されている。ヒト以外の生物でのコントラスト効果の実証研究では、主に餌の質や量を変化させた場合の行動の変化が扱われてきたが、餌の摂取による体内の生理的な変化と環境把握による認知的な変化のどちらが行動変化の原因となっているかの識別は困難である 。本研究では アズキゾウムシの産卵行動において、餌の摂取を伴わずとも、産卵資源量(リョクトウの数)の変化を認知することによってコントラスト効果が生じることを示した。アズキゾウムシは未交尾の状態では産卵しないので、交尾前の環境を経験環境、交尾後の環境を産卵環境として分けることができる。実験では、アズキゾウムシにリョクトウが豊富な環境、もしくは乏しい環境を経験させてから交尾させ、リョクトウが豊富な環境に導入した後 2時間の産卵数を計測することで、アズキゾウムシが産卵資源の価値をどのように判断したかを比較した。複数の系統で実験を行った結果、コントラスト効果を持つ系統と持たない系統が存在することが明らかになった。コントラスト効果の存在は、昆虫が現在の環境のみを頼りにするのではなく、ヒトと同様に過去の環境を記憶し、現在の環境と比較することで意思決定を行っていることを示している。さらに、実験結果と実験に使用した系統の室内飼育年数の違いをもとに、コントラスト効果が変動環境に対する適応的な反応であるという仮説について考察する。


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