| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-O-403  (Poster presentation)

外来種の迅速な進化:キタアメリカフジツボ幼生の定着高度の時間変化

*大平昌史(北大院環境), 野田隆史(北大地球環境)

一般的に動物は様々な手掛かりを用いて適応的に生息場所を選択している。しかし侵入直後の外来種では、侵入先と本来の分布域の間で生息場所の環境が異なるため、これまで利用していた手掛かりを用いた生息場所選択は必ずしも最適な結果をもたらすとは限らない。その後不適応な生息場所の選択は自然選択によって解消されていくため、侵入後の経過時間とともに最適な生息場所の選択ができるようになる可能性がある。 

 岩礁潮間帯に生息する固着動物は種固有の垂直範囲に分布し、その分布パターンの決定には幼生の定着高度の選択が重要である。また浮遊幼生が定着後まったく移動できないため、各幼生個体の定着高度はその後の生存率や繁殖率に影響を及ぼす。さらに幼生の定着場所の選択には遺伝的基盤があることが知られている。したがって固着動物が外来種として新たな地域に侵入した場合、侵入直後は幼生の定着高度の垂直パターンと適応度の垂直パターンとの間にミスマッチが存在するが、それは経過時間とともに解消され、幼生の垂直パターンは侵入後の経過時間とともに変化する可能性があると考えられる。
 
 この仮説を検証するために北海道東部に侵入したキタアメリカフジツボを対象に、侵入直後の2004~2015年の期間25岩礁で、①幼生の定着密度、②定着直後の生存率、③成体の生存率の垂直プロファイルを比較した。その結果、①と②の鉛直プロファイルの相関関係は侵入初期には無相関であったが、侵入後10~12年で有意な正の関係に転じた。また①と③の鉛直プロファイルの相関関係は侵入直後の1~3年は有意な負の関係であったが、その後は無相関に転じた。以上の結果は、キタアメリカフジツボ幼生の定着高度の選択は侵入直後では非適応的だったが、経過時間とともにより適応的に変化したことを示唆する。


日本生態学会