| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-O-416  (Poster presentation)

外来種マツノザイセンチュウの侵入・拡大過程とその適応性

*小林玄(九州大学生資環), 田村美帆(九大院農), 松永孝治(森林総研林育セ九州), 渡辺敦史(九大院農)

約100年前に北米から侵入してきたマツノザイセンチュウは、Monochamus 属のカミキリを媒介者として国内最大の樹病であるマツ材線虫病を引き起こす。1940年以前は、九州地方と主要な貿易港を中心とした散発的な被害であったが、1970年代には関東以西の地域全域に、その後約10年で急速に東北地方へと拡大した。本種は外温動物であり、病徴の進展や増殖に温度が密接に関連すること、媒介者や宿主の分布が水平・垂直方向に広い範囲を持つことから、温度が本種の分布制限要因として考えられる。しかし、近年拡大した地域の多くが、MB指数(温度指数)40以下、つまり本種の被害発生基準以下に相当する地域であり、分布域を拡大する過程で温度に対する反応性が変化した可能性がある。実際に外来種の中には、数十世代で新たな環境に適応し、原産地と異なる特性を持つことが報告されている。そこで、新規に全国から収集した71 isolateの内、地域の異なる16 isolateに対して数段階の培養温度を設定し、温度との増殖率の変化曲線、Thermal performance Curves(以下、TPCs)を求めisolate間で比較を行った。その結果、系統間でTPCsが異なり、九州では高温側に東北では低温側にTPCsがシフトする傾向がみられた。さらに、71isolate全てを対象にミトコンドリアゲノムにおけるgenotypingを行った。その結果、大きく異なる2つのhaplotypeが確認され、2つのhaplotypeは太平洋側と日本海側に分かれる傾向を示していた。TPCsとhaplotype間には明瞭な関連性はなく、TPCsの変化が地域性を示したことから侵入後の分布拡大過程において温度が選択圧となり、本種の温度への反応性が各地で変化した可能性が示唆された。


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