| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-O-418 (Poster presentation)
外来種の導入は、生物多様性を低下させる主要因のひとつである。なかでも種間交雑は、遺伝子汚染や繁殖効率の低下を招き、在来種を絶滅させる危険性がある。交雑の影響を評価する上で、最も有効なアプローチは、野外で雑種の相対的な適応度や移動分散能力を親種のものと比較することである。しかし、それには繰り返し調査や個体識別にかかる多大な労力と、高い再捕獲率を示す研究系が必要である。そのフィールド調査の困難さゆえに、個体レベルで雑種の挙動を追跡した研究は乏しい。
北海道空知川では、外来カワマスと在来アメマスの種間交雑が報告されている。これまでの研究から、外来カワマスの地理的分布は縮小傾向にあるものの、遺伝子浸透が起きていることがわかっている。今後、その外来遺伝子がどれくらい存続しうるのかの理解を深めるためにも、雑種の適応度にかかわる形質を親種と比較する必要がある。そこで本研究では、空知川水系の東布礼別川に生息する外来カワマスと在来アメマスおよびそれらの雑種を対象に、成長率と生存率、移動性を定量化した。
4年間8回の調査において個体の再捕獲率は高く、PITタグを装着した全1089個体のうち55%は少なくとも一度は再捕獲された。2013年の春に浮上した年級群(569個体)における成長率解析では、雑種が外来カワマスと在来アメマスよりも勝っており、外来カワマスは在来アメマスよりも成長が良かった。生存率解析では、全体的に雑種が親種よりも高い値を示していた。外来カワマスの移動性は、在来アメマスよりも低かったが、雑種の移動性は外来カワマスよりも高かった。外来カワマス自体の地理的分布は広がらずとも、在来アメマス由来の移動性を有した雑種が、媒介者として外来遺伝子を拡散させるかもしれない。