| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-O-424  (Poster presentation)

千葉県内におけるアライグマの集団遺伝学的解析

*吉田和哉, 井上英治, 長谷川雅美(東邦大学(院・理))

 アライグマは北中米原産の中型哺乳類で、世界各地に侵入している外来生物である。千葉県では約20年前に侵入したとされているが、侵入の履歴や集団内の遺伝構造は詳細にわかっていない。そこで本研究では、集団遺伝学的手法を用いて、アライグマの侵入地域や侵入回数、遺伝構造を推定し、防除事業を行う上での管理ユニットについて考察した。
 2014年から2016年にかけて、千葉県南部の5地域で合計119個体のサンプルを収集し、DNAを抽出した。まず、ミトコンドリアDNAのD-loop領域のハプロタイプを決定し、地域間の頻度を比較した。次に、核DNAのマイクロサテライト24領域について、各個体の遺伝子型を決定し、ヨーロッパの侵入集団との遺伝的多様性の比較、STRUCTUREを用いたクラスター数の推定および地域集団の遺伝構造の解析を行った。
D-loop領域では2つのハプロタイプが検出され、STRUCTURE解析では、3つのクラスターが検出された。侵入は複数回起こったと考えられ、地域間の構成の違いから、目撃情報により確認されていた地域とは別の地域でも侵入・定着が起きたことが示唆された。マイクロサテライトの遺伝的多様性は、ヨーロッパの侵入集団と比べて高いもしくは同等であり、千葉県南部において侵入・定着に関与した個体数は、ヨーロッパの侵入地域より多かったと推測される。また、2つのハプロタイプと3つのクラスターがほぼすべての地域で確認されたことから、千葉県南部では広範囲にわたる遺伝的交流があり、移動を完全に妨げるような遺伝的障壁はないと考えられる。
 以上のように、集団遺伝学的解析により、複数回の侵入があったこと、広範囲にわたる遺伝的交流があり、遺伝的多様性の高い集団であることが示された。防除事業を行う際は、隣接する市町村や都道府県からの個体の流入の可能性があるため、市町村や都道府県を超えた対策が望ましいと考えられる。


日本生態学会